2021年10月、米国NGO(非営利団体)のフリーダムハウスは「ネット上の自由(Freedom on the Net)」と題する報告書の2021年版(文末の参考文献を参照)を公表した。「ビッグテックをコントロールしようとする国際的な流れ(The Global Drive to Control Big Tech)」という副題を付けられた今回の報告書は、2020年6月から2021年5月の間に観察されたネット上の規制や取締りの数々を集約し、世界70か国の状況を世界の専門家80人以上で分析したものだ。
70か国を対象とすることで世界のネット利用者の88%がカバーされており、ネット自由度を100点満点でスコアリングした報告書の結果によると、「自由」(20%→21%[20年版→21年版])や「部分的に自由」(32%→28%)と評価された国は過半に至らず、「自由ではない」(35%→39%)と評価された国が昨年に比べて増加しており、昨年の報告書よりさらに状況が悪化していることを示している。
報告書で評価が高い国、つまりネット自由度が高いと認められた国はアイスランド(96点)とエストニア(94点)が群を抜いており、続くカナダ・コスタリカ(87点)の後、台湾(80点)、ドイツ(79点)、フランス・英国(78点)、日本(76点)、米国(75点)となっている。総じて欧州の国々が高い評価を得る傾向にある(日本は世界第9位)。
スコアリングを行う上での評価項目は21項目あり、ネットアクセスへの障害の大きさ(ネットインフラの整備の遅れ、政府による特定のアプリや技術へのアクセスの禁止、規制体の独立性など5項目)、コンテンツに関する制約(コンテンツに関する法的制約、サイトに対するフィルタリングやブロッキング、ネット検閲など8項目)、利用者の権利の侵害(表現の自由の制約、オンラインでの活動に対する取締りなど8項目)となっており、地域別に見ると、アジア太平洋地域では、台湾・豪州・日本が「自由」と評価されている一方、ベトナム(22点)、ミャンマー(17点)、イラン(16点)、中国(10点)などは「自由ではない」と評価されている。特に中国については調査対象国70か国の中で昨年に続いて最下位となっている。
報告書ではコロナ禍でのネット規制の事例についても触れている。例えばカンボジアににおいて、2021年3月、政府のコロナ対策を妨害する行為が犯罪行為(懲役刑は最長5年)とされ、中国製ワクチンについてSNNの投稿で批判した反政府勢力のメンバーを含む数人が逮捕された。また、コロナ対策の一環として導入された接触追跡アプリやワクチン接種証明アプリに蓄積された個人の健康関連データが捜査当局によって別目的で利用されたという事案がシンガポールと豪州で確認された。
さて、今回の報告書では従来から引き続きの傾向として、欧州各国のネット自由度が比較的高いと評価されている。しかし、ネット自由度が高いということは逆に他国からの干渉を受けやすいということでもある。欧州各国は特に他国から偽情報が発信され選挙結果などを不正に歪められることに危機感を抱いている。
2020年12月、欧州委員会は「欧州民主主義行動計画(European Democracy Action Plan)」を発表し、その中でサイバー空間における民主主義の維持に向けた行動計画の柱を明らかにした。その柱とは、(1)自由で公正な選挙の推進、(2)自由で独立したメディアへの支援、(3)偽情報対策の強化の3項目。
このうち、(1)自由で公正な選挙の推進については、2021年11月、欧州委員会は政治的な広告及び(広告の)ターゲティングにおける透明性に関する新しいルールを提案した。その中で、政治的な広告についてはその旨を明示し、広告のスポンサー等について情報開示することなどが盛り込まれている。
また、(3)欧州の偽情報対策について欧州委員会は2019年から具体的な動きを見せており、偽情報対策のための行動規範を策定し、これをプラットフォーマーが自主的に遵守することを宣言する「共同規制」の手法を採用してきた。これは2020年5月に実施された欧州議会選挙におけるサイバー空間上の偽情報による不当な影響力行使を防止することを目的としていた。欧州委員会は行動規範による取り組みを通じて所期の目的を達成したと結論づけたものの、行動計画では「コロナ禍において外国勢力や特定の第三国、特にロシアと中国が偽情報による情報操作を行なっている」との認識を示しつつ、行動規範の強化に取り組んでいくとしている。
具体的には、偽情報のもたらすインパクトやプラットフォーマーの偽情報対策の効果についてモニタリングを行うほか、スポンサー広告に紐づいた偽情報対策、ファクトチェック機関とプラットフォーマーとの間のオープンで非差別的な連携の強化、偽情報拡散を制限するための方策の検討などを内容とする新たなガイドラインを2021年春に公表し、その効果については次回の欧州議会選挙が行われる1年前の2023年に評価することとしている(筆者注:2021年5月、欧州委員会は行動規範の強化に向けた関連文書を公表)。
ネット空間における多様性を確保し、個人のプライバシーを守りながら、国内あるいは国内・国外の間のネット分断を回避することは、コロナ禍の現状にあっても守るべき最も重要なことの一つだと言える。他方、ネットの自由を守るためにも偽情報の流布などを防止するために直接的な規制だけではなく、表現の自由や報道の自由を守りながら、官民連携型の偽情報対策なども進めていく必要がある。ネット上の自由を守るためには国・民間企業・市民社会が連携して取り組んでいくことが強く求められる。