タニワキコラム

デジタル政策について語ろう

インターネットの自由2022

 2022年10月、米国NGO(非営利団体)のフリーダムハウスは「ネット上の自由(Freedom on the Net)」と題する報告書の2022年版(文末の参考文献を参照)を公表した。「国家権威主義によるインターネットの再構築に対抗して(Countering an Authoritarian Overhaul of the Internet)」と副題を付された今回の報告書は、2021年6月から2022年5月の間に観察されたネット上の規制や取り締まりの数々を集約し、世界70か国の状況を各国の専門家80人以上で分析したものだ。今回12回目となる報告書は、(後述する)評価項目が安定的・網羅的であり、ネットの自由度について定点観測を行う上での貴重な材料になっている。

 

 さて、報告書は世界70か国を調査対象とすることで、ネット利用者(約45億人)の89%をカバーしている。報告書では、各国ごとにネット自由度を100点満点でスコアリングしているが、世界全体の傾向として、ネットにおける市民の活動が「自由」(20%[20年]→21%[21年]→18%[22年])あるいは「部分的に自由」(32%→28%→34%)の数値をみると、両者を合計した比率は過半にとどまっており、対象国の約半分が「自由」または「部分的に自由」であるという状況(52%→49%→52%)に大きな変化はみられない。しかし、仔細に各国の状況を個別に分析すると、少なくとも53か国でオンライン上での意見表明に対し公的な圧力が加えられた事案が観測されるなど、世界全体のインターネットの自由度は継続的に低下しており、「世界のインターネット利用者の3分の2以上がオンライン上において表現の自由という権利を行使しようとして国家権威者に罰を加えられている」(報告書p2)としており、特に昨年と比べて大きく得点が低下しているのは、ロシア(30点[21年]→23点[22年])、ミャンマー(17点→12点)、スーダン(33点→29点)、リビア(48点→44点)の4か国となっている。なお、報告書は26か国において市民団体等の積極的な活動によりネットの自由度が改善しているという明るい兆しが観測された点にも触れているが、他方、スパイウェアの高度化などオンライン活動の監視手段の巧妙化も同時に進んでいるとしており、事態は一進一退の状況にあるという認識を示している。

 

 次に、個別の国の状況をみると、評価の高い国、つまりネットの自由度が高いと認められたのはアイスランド(95点)、エストニア(93点)、コスタリカ(88点)、カナダ(87点)の4か国で、これは昨年の調査と同じ。この4か国に、台湾・カナダ(79点)、英国(78点)、ジョージア(77点)、ドイツ・日本(76点)、豪州・フランス・米国(75点)と続いており、日本は世界第9位という状況にある。

 

 このスコアリングの基礎となる評価項目は21項目あり、ネットアクセスへの障害の大きさ(ネットインフラの整備の遅れ、政府による特定のアプリや技術へのアクセス禁止、規制体の独立性など5項目)、コンテンツに関する制約(コンテンツに関する法的制約、サイトに対するフィルタリングやブロッキング、ネット検閲など8項目)、利用者の権利の侵害(表現の自由の制約、オンラインでの活動に対する取り締まりなど8項目)となっている。地域別にみると、アジア太平洋地域では、台湾・豪州・日本が「自由」と評価されているのに対し、タイ(39点)、パキスタン(26点)、ベトナム(22点)、ミャンマー(12点)、中国(10点)が「自由ではない」と評価されている。特に中国については8年連続で世界最低水準の自由度であると結論づけられている。

 

 なお、報告書ではネットにおける国家による監視干渉行為の有無(例えば、特定のコンテンツのブロッキングやネット遮断、ネット上の市民の発言や行為に対する処罰、国による監視を正当化する制度の整備など)についても解析している。その中で、監視干渉行為を行っていない国として挙げられているのは9か国(20年)→7か国(21年:前年調査から豪州、マラウィ、ガンビアが脱落し、コスタリカが追加)→4か国(22年:同じくエストニア、フランス、英国が脱落)と減少しており、日本は監視干渉行為を行なっていない数少ない国(他の3か国はカナダ、コスタリカアイスランド)の一つとなっている。

 

 ネットの自由度は、インターネットというサイバー空間における公的権力の介入度が表現の自由などの個人の権利を上回る国家権威主義と表裏一体の関係にある。そして、世界のネット利用者の3分の2以上が国家権威主義による抑圧や制約を課されている中、ネット上で形成される世論も国によって大きく異なったものとなり、世界の更なる分断を招くことが懸念される。インターネットの運営のあり方、すなわちインターネットガバナンスを巡る議論はすべてのステークホルダー間で共有すべき最も重要なものの一つだと言えよう。来年2023年秋には日本において世界の人々が集まってインターネットガバナンスのあり方について議論するInternet Governance Forumが開催される。日本がこうした議論を先導できるよう、インターネットコミュニティの一員として更なる努力を続けたい。

 

(参考文献)Shahbaz, Funk, Slipowitz, Vesteinsson, Baker, Grothe, Vepa, Weal eds. Freedom on the Net 2022, Freedom House, 2022